目次
南総里見八犬伝とは
江戸時代後期(1814刊行-1842完結)に、曲亭馬琴(滝沢馬琴)が28年かけて完成させた長編小説。
完全空想ものではなくて、歴史上の出来事や人物などをベースに、室町時代後期(1440-80年代頃)の安房里見氏をモチーフに繰り広げられる小説。
道徳的な要素も散りばめられているため、小さい子供向けに分かり易く要約されたりもしています。
大人が読んでも、
江戸時代後期の化政文化について、日本の古典文学、室町時代後期の関東での日本史
について、学べる一冊ですね!
ちなみに曲亭馬琴は、源為朝をベースにした小説「椿説弓張月」も書いています。
もう、忘れられない人物!
超あらすじ
永享12(1440)年に起った、室町幕府と結城氏(亡き足利持氏派)らが争った結城合戦。敗北した結城方として参戦していた里見父子。父「季基」が戦死、嫡子「義実」は命からがら逃げだし、安房へ向かうところから話は始まります。
(このページでは歴史上の出来事を整理したいので、小説[フィクション]部分についてはあまり書きません)
里見義実が安房に入った時、国は4つに割れていて、安房国統一を目指して、敵将等を倒した時にある女性(玉梓)から呪われて、里見家に降りかかる災難と里見家を守る八犬士の出会いなどを経て最大の敵(上杉定正&足利成氏軍)と戦って勝利し、安房里見氏にしばしの安寧が訪れて、物語は終わります。
物語最後の段階では、里見義実は引退して、嫡子「義成」とその子「義通」が最期の合戦に挑んでいます。
という訳で、南総里見八犬伝は、安房里見氏の中でも、初代「里見義実(よしざね)」から、3代「里見義通(よしみち)」までの小説ということになります。
里見氏
南総里見八犬伝では、重要な人物の「安房里見氏」
本姓は、なんと「(河内)源氏」。源義重の子「義俊」を祖とし、新田氏の庶宗家です。
物語でも、里見の姫が笹竜胆の画が書かれた服?着物?を着ている場面があります。
八幡太郎義家
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源義親 源義国
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源為義 源義重(新田氏祖) 源義康(足利氏祖)
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源義朝 新田義兼 里見義俊
| (宗家) (里見氏祖)
源頼朝
※系図が崩れる場合は、画面を横にしてご覧ください
里見の名は、上野国碓井郡里見郷(現、群馬県高崎市上里見町・中里見町・下里見町)から来ているそう。ちなみに、里見義実の父「里見季基」は、源義家の11代末裔になります。
安房里見氏
安房里見氏は前期、後期と分けて扱われることが多いようで、系図の左側(1,2,3,5)が前期。系図の右側(6以降)が後期とされているようです。
南総里見八犬伝では、前期安房里見氏の小説ということになりますね。
後期安房里見氏は、小田原北条氏と敵対。そのせいもあってか鎌倉へ攻めてきています。
里見実堯の時には鎌倉を攻撃し玉縄北条氏とも戦い、玉縄城の外堀として活用されたであろう柏尾川沿いには戦死者を祀った玉縄首塚があります。
1.里見義実 →永享12(1440)年、結城合戦敗北後に安房国に移り、安西氏を追放して領主に
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2.里見成義(義成)→長禄3(1459)年、家督を継ぐ
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3.義通 5.実堯 →大永6(1526)年11月 鎌倉へ進入、鶴岡八幡宮寺が焼失
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4.義豊 6.義堯
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7.義弘 →弘治2(1556)年 鎌倉攻め、青岳尼(太平寺住職)を安房へ連れ去る
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8.義頼
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9.義康
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10.忠義 →慶長19(1614)年 安房国没収の上、伯耆国へ国替え
※系図が崩れる場合は、画面を横にしてご覧ください。
また、歴代当主の順番は、複数の仮説等によって変化し統一されてはいません。(上記は一例)
今後も歴史が解明されることで変わっていく可能性がありますから、順番より流れを掴みましょう。
結城合戦とは?
南総里見八犬伝の最初出てくるのが「結城合戦」
永享12(1440)年、茨木県結城市にある結城城で行われた、室町幕府軍 vs 結城氏 との戦いです。
なぜこの戦いが起ったのか?結城氏をはじめ、どんな登場人物がいるのか。整理してみたいと思います。
結城合戦が起った原因は?
第4代鎌倉公方「足利持氏」と、関東管領「上杉憲実」が対立し、永享10(1438)年に永享の乱が起こりました。
足利持氏が上杉憲実を討とうとしたため、第6代将軍足利義教が上杉憲実を援助。その結果、室町幕府・関東管領軍が勝利し、足利持氏はあえなく自害。
鎌倉公方が居なくなったので、足利義教は実子を鎌倉公方として下向させようとします。それに異を唱える足利持氏の残党や、持氏派の結城氏が、足利持氏の遺児「春王丸・安王丸」を擁立して、室町幕府に反乱を起こしました。これが結城合戦です。
翌、嘉吉元(1441)年に、結城軍は敗北、討死、城は落城して終わります。
南総里見八犬伝では、里見親子は結城軍として加わり、父「里見季基」は嫡男「義実」に家再興の望みを託して逃すところから始まります。
登場人物
結城氏朝
結城氏朝(うじとも|1402~1441)は、下総結城氏11第当主。
4代鎌倉公方、足利持氏から「氏」の名を頂き、氏朝と名乗りました。れっきとした持氏派閥ですね!
鎌倉時代初期に、源頼朝の乳母「寒川尼」を母に持つ「結城朝光」が結城氏の祖。源頼朝の親衛隊「家子」の一人としても選ばれています。家子筆頭は北条義時。あの大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の主人公です。
足利持氏(第4代鎌倉公方)
第四代鎌倉公方。在職は1409~1439年。
室町幕府将軍「足利義教(よしのり)」と対立し、永享の乱で討たれる。
1.足利尊氏
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2.足利義詮(室町将軍) 1.足利基氏(鎌倉公方)
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3.足利義満 2.足利氏満
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6.足利義教 3.足利満兼
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8.足利義政 4.足利持氏
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春王丸 安王丸 1.足利成氏(古河公方)
※系図が崩れる場合は、画面を横にしてご覧ください
鎌倉市大町の別願寺(時宗)には、巨大な足利持氏の供養と言われる宝塔が境内に建っています。
足利持氏の遺児「春王丸・安王丸」
鎌倉公方「足利持氏」の子。
永享の乱で父持氏は自害するも、春王丸と安王丸は下野国日光山に潜伏し、後に結城氏朝に匿われます。
結城合戦で擁立されるも、室町幕府方に敗北。
京都に護送中、足利義教の命によって美濃国垂井宿の金蓮寺にて殺害されました。
ちなみに、春王丸・安王丸より年少の足利成氏も捕らえられ別行動で京都へ。こちらは途中で足利義教が嘉吉の乱で暗殺されたため、処分が実行されず生き延びたと伝わります。
足利成氏は大きくなり、鎌倉公方に復帰が叶うものの、また鎌倉管領と対立。
鎌倉から古河へ拠点を移して、古河公方となりました。
関東大戦(小説上の戦い)
いろいろあってようやくそろった八犬士の前に、里見家を恨み滅ぼそうとした関東管領「扇谷定正」、「山内顕定」らが大軍を率いて房総半島一帯で繰り広げられる、「南総里見八犬伝」物語最後の戦い。
結果は、当然ならが八犬士率いる里見軍が勝利し、八犬士には褒美の城と領地、里見の姫をくじ引きでそれぞれ娶とることになったが、犬塚信乃と浜路が運よく夫婦になったなど、ハッピーエンドで終わります。
上杉定正(扇谷上杉家当主、相模守護)
1443?-1494年
関東管領を継承する山内上杉家の分家。永享の乱(1438年)から享徳の乱(1454年)まで山内家を支えた。
扇谷上杉家の家宰、大田道真・太田道灌父子は、扇谷家の勢力拡大に貢献した重要人物。
疑心暗鬼からか、力を持ち過ぎた太田道灌を恐れたか、文明8(1476)年に相模糟屋館(現厚木市)にて太田道灌を殺害する。
南総里見八犬伝では、常に暗愚(家臣に騙され、浅はかな人物)な大将で、太田道灌にはそうそうに見限られていた等と書かれている、ちょっと可哀そうな人物。
八犬士の犬山道節は、父が殺されたこの扇谷定正を討つことが生きる目的となっていました。
山内顕定(山内上杉家当主、関東管領)
1454~1510年
山内上杉家11代当主。越後上杉家の出身。40年以上も関東管領を務めた人物
<関東管領>
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上杉憲実(山内8|1419~1439)→ 永享の乱 vs 4代鎌倉公方「足利持氏」
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上杉憲忠(山内9|1447~1454)→ 5代鎌倉公方&初代古河公方「足利成氏」に誅殺される
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上杉房顕(山内10|1455~1466)→ 享徳の乱で足利成氏討伐へ向かうも敗北
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上杉顕定(山内11|1466~1510)→ 扇谷定正と対立し長享の乱へ、後半は北条早雲と戦う
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※表が崩れる場合は、画面を横にしてご覧ください
南総里見八犬伝では、扇谷定正と並んで総大将として国府台(現千葉県市川市)へ向かって八犬士と戦います。
登場人物-生誕順
足利義教(1394~1441)※室町幕府第6代将軍
足利持氏(1398~1439)※第4代鎌倉公方
結城氏朝(1402~1441)※結城合戦首謀者
里見季基(?~1441) ※里見義実の父
里見義実(1412~1488)※安房里見氏の祖
春王丸(1430?~1441)※持氏の遺児
安王丸(1431?~1441)※持氏の遺児
扇谷定正(1443~1494)※里見軍&八犬士の最後の敵
山内顕定(1454~1510)※扇谷定正と共に八犬士と戦う
映画「里見八犬伝」
南総里見八犬伝は、歌舞伎、浄瑠璃、演劇、映画、テレビドラマ、小説、漫画、ゲームなどいろいろな分野の題材になっています。
その中でも、1983年に公開された映画「里見八犬伝」。
曲亭馬琴の描いた「南総里見八犬伝」を基にした脚本なので、ストーリーなどはちょっと違いますが、ヒロインの薬師丸ひろ子と、主人公真田広之(犬江新兵衛)が繰り広げる映画です。
これを見たうえで、本編を読むと、犬江新兵衛がなぜ主人公なのか?が何となくわかりますよ。
室町時代後期の特に鎌倉・関東周辺で起きた争乱はとってもややこしいですが、南総里見八犬伝のような面白い物語を読んで、ちょっと寄り道してみたら、いろいろ時代軸が繋がっていくと思います。
急がば回れですね!